日本航空の経営再建問題

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日本航空の経営再建問題とは2009年末に資金繰りが厳しくなることが予想されている日本航空がグループ従業員約6800人の削減、国内線と国際線で計50路線の廃止などを柱とする再建計画案を作成して追加融資の獲得を目指したが、前原誠司国土交通相は「実現可能性は不十分」と判断し、再建策が抜本的に見直されることになった問題である。

日航は国交相直轄の企業再生専門家チーム「JAL再生タスクフォース」の指導を受け、主力銀行への2500億円を超える債権放棄要請を軸にした新たな再建計画案を策定、主力銀行などと調整に入っている。


経営危機の経緯[編集]

  • 2005年、日本航空の経営が危機的な状況に陥り社債利回りが急騰するなど市場から厳しい目を向けられ始めた。それから4年、市場の警告を無視して有効な対策を打たなかったJALはさらに厳しい状況に追い込まれた。2009年9月末時点での、ほぼ同期間(償還まで約9年)のJAL社債、ANA社債、そして国債の利回りを比較してみると、国債の利回りは1.0%台と非常に低く、ANAの社債利回りは3.3%程度。国債よりも利回りが高い。JALの社債利回りは9.0%に達している。
  • 2008年3月に主力取引先の銀行や商社など15社を対象に優先株発行による約1500億円の第三者割当増資を実施したが、その優先株が初年度から無配になる。JALは企業存続のために大規模な資金調達が不可欠だった昨年度末、高配当を条件に大型増資にこぎ着けた。代償の年間配当予定は総額約60億円。増資による経営基盤の強化で再建を軌道に乗せて支払う目算だったが、世界的な景気後退によって航空業界は旅客数・貨物輸送量共に急減。08年度最終利益は新たな特別利益でも捻出しない限りは目標の130億円から赤字レベルへの下方修正が避けられない状況に陥った。利益が確保できなければ普通株同様に優先株も無配が避けられず、優先株を保有する銀行団は今後の融資姿勢を厳しくせざるをえない。航空需要の落ち込みは底が見えず、加えてJALなど日系大手は燃油価格の高騰時に2~3年先までかなりの比率で燃油価格のヘッジを行なってきたため、価格下落のメリットが09年度に入っても十分に享受できない。
  • 利用者に対する燃油サーチャージは燃油価格の変動に応じて1月以降引き下げが始まっており、収益面で見ると価格下落が足を引っ張ることになる。そんななかでJALは09年度に520億円の社債償還を控える。資金繰りの悪化を回避すべく、水面下では日本政策投資銀行による航空業界への緊急融資の検討が始まる。国土交通省の主導により、これまでも米同時テロ発生後の旅客数減少など非常時に業界への緊急融資は実施されてきた。
  • 危機の火種は資金面以外にもある。優先株への配当ができない場合の経営責任を追及する声が社内で出ているのだ。今下期の業績悪化は不測の外部要因が大きいことは明白で、西松遥社長は続投の意思があるとされるが、お家芸の社内抗争が燻っている。国交省事務次官OBで前・成田国際空港(NAA)社長である業界の大物、黒野匡彦・NAA特別顧問をトップに担ぎ出そうとする一派もある。
  • 日本航空の現状は、1)有利子負債は約8015億円(2009年3月期)、2)有利子負債返済の原資である営業利益/損失は508億円の赤字。(2009年3月期)つまり、日本航空には有利子負債を返済する原資(営業利益)がない、3)来期の業績予想でも、営業利益/損失が590億円の赤字であるため、有利子負債を返済する原資がない、4)現在の有利子負債から逆算すると、日本航空には年間800億円程度のフリーキャッシュフローが最低限必要だが、2009年3月期の日本航空のフリーキャッシュフローもマイナス 、5)存続するためには、更に4500億円が必要、6)企業年金は、3314億円の積立不足(2009年3月期)で、これは簿外という状況で、現在の格付けは、ムーディーズ、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)、格付投資情報センター(R&I)、日本格付研究所(JCR)による格付け(ムーディーズは、日本航空に格付けしていない)は、すべて、「ダブルB以下」の投機的等級。S&Pは更なる格付けの引き下げも50%の確率であると報道されている。
  • そして2009年8月7日、日本航空は09年4~6月期の四半期決算が、売上が前年同期比31.7%減の3348億円、連結営業赤字が861億円、第一四半期としては過去最悪の数字であることを発表した。
  • 2009年10月17日、日本航空の経営再建に向けて前原誠司国土交通相直轄の専門家チーム「JAL再生タスクフォース」は、経営不振の企業の再建を支援する「企業再生支援機構」を活用する方針を固めた。活用が決まれば、支援機構が公的資金を使って日航を救済し、同社の過半数の株式を取得することを想定しており、公的関与がこれまで以上に強まるのは確実だ。銀行団の一部債権放棄も必要になるため、日本政策投資銀行などの主力取引銀行や、関係省庁と最終調整する。日本航空の再建をめぐっては、専門家チームが、主力取引銀行に2500億円超の債権放棄を要請することを柱にした新たな再建計画案を策定している。これに対し、主力取引銀行は「負担が大きい」と、再建案の受け入れに難色を示している。
  • 公的資金の活用に関しては、改正産業活力再生特別措置法(産業再生法)の適用申請という選択肢もあり、検討されてきた。しかし、支援機構を活用した場合は、日航への融資が不良債権とみなされないなど、主力取引銀行のメリットが多い。このため、債権放棄額を減額した上で支援機構を活用すれば、銀行団の理解を得られやすいと判断したもよう。
  • 16日に発足した企業再生支援機構は、ダイエーや旧カネボウを支援した産業再生機構の仕組みをもとにしている。専門家チームのメンバーの多くは、産業再生機構で企業再生に関わった経験があり、日航の支援決定後は、そのまま経営に参画し、再建を手がけるとみられる。

支援機構は、地方経済の活性化を目指し、地方の中堅・中小企業の支援を中心にするが、日航のような大企業も排除しないことを確認している。日航の経営再建は地域経済への影響も大きく、支援が受け入れられる可能性は高い。

  • ただ、日航の支援には、数千億円単位の公的資金が必要になる見通しで、再建が不調に終われば、国民の税金で穴埋めすることになるため、政府・与党内には、再建実績のない支援機構の活用に慎重論もある。

専門家チームは、今月末にまとめる再建計画の骨子に先駆け、20日にも骨子案を公表する方向で銀行団と調整してきたが、日航の株価が上場来最安値を更新するなど「市場の信頼が急速に低下している」(銀行団)ことから、骨子案の公表を19日に前倒しすることも検討している。その後、11月末には最終的な再建計画をまとめる方向だ。

  • 再建計画は人員削減を従来計画の6800人から9千人超に拡大、年金債務を1千億円に圧縮するほか、経営責任を明確にして西松遥社長の退任を求めることが明らかになっている。


■企業再生支援機構 官民共同で200億円を出資して設立した政府系機関で、1兆6千億円の公的資金を投入できる枠を持つ。業務期間は5年間。関係者間の利害調整のほか、金融機関からの債権買い取り、対象企業への出資、経営陣の派遣などの再生実務を主導する。対象企業の経営が改善した後は、新たなスポンサーに譲渡して再建を終える。支援決定では、まず銀行団と対象企業が機構に支援要請し、機構が関係省庁の意見を聴いた上で最終判断する。初代社長には、元東京都民銀行頭取の西沢宏繁氏が就任した。

経済産業省のレポート「日本航空の経営危機について」[編集]

日航の企業年金がライバルの全日本空輸の約3倍(*年金支給額がモデルケースで年583万円。大企業の平均支給額は、年300万円台半ば。勤続42年のモデルケース(1965年生まれ、18歳入社、60歳退職)で、65歳以降の年金支給額は基礎年金と厚生年金、企業年金を合わせて月48万6000円、年583万2000円。ちなみに日本航空作成の減額案でも最高月36万1000円、年433万2000円が支給される)と手厚く、日本航空の年金債務の積み立て不足である3314億円などを勘案すると実質債務超過に陥っていると指摘。また、八つの労働組合の抵抗で、人件費削減が進まないことから、運航コストが割高になっているとしている。その上で、抜本的な経営再建に当たっては、不可欠である年金と人件費のカットに加え、不採算の路線や事業を分離する「会社分割」や全日空との国際線統合など複数の案を提示。他業界を含む社外からの経営陣招へいの必要性も明記した。さらに、改正産業再生法による公的資金の資本注入や、企業再生支援機構の活用など公的支援を検討すべきとしている。


脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

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